2020.10.31〜11.15|是恒さくら+Dylan Thomas「ふたつの水が出会うとき / When two waters meet」(Cyg art gallery, 盛岡)11/8/2020 Cyg art galleryの近くを流れる中津川にかかる橋の上では、毎年秋になると多くの人が鮭の姿を探して足を止めます。遠く海の向こうのビクトリア市にも鮭が帰る川が流れ、古くから人々の生活に欠かせない存在となっているそうです。
この展覧会では盛岡市・ビクトリア市姉妹都市提携35周年記念事業として、2つの土地に共通する「鮭」の存在に注目し、「鮭と人の暮らしとアート」をテーマに是恒さくらとDylan Thomas2人の作家の作品をご紹介いたします。 是恒さくらは各地に残る鮭の話を聞き集め、それらの話や取材の旅の中で目にした様子をもとに作品を制作。その様子は集めた糸を組み合わせより分けながら布を織り上げるようでもあります。その作品からは、互いの相違点ではなく、どこか似通った姿が見えてきます。 Dylan Thomas はカナダの先住民であるコーストサリッシュのアーティストで、伝統的なモチーフや技法を引き継ぎながら、新しい伝統芸術を発表しています。その作品の図案と色のハーモニーは、魚の動きや月の形など自然の現象を映し出しています。 残念ながら、今回はDylanの来日は叶いませんでしたが、2人の作家が描く鮭の姿を通して、遠く離れた土地の物語に思いを馳せていただければと思います。 --- 「ふたつの水が出会うとき / When two waters meet」 盛岡市の中心部を流れる中津川では、秋になると橋の上から川をのぞきこむ人たちを見かける。長い旅から故郷の川へ戻って来た鮭を、誰もが愛おしそう見つめている。 東北各地に「鮭のオオスケ」にまつわる伝承がある。毎年秋の決まった日に、鮭のオオスケと呼ばれる大きな鮭が叫び声をあげながら、眷族をひきつれ川を上ってくる。その叫び声を聞いた者は命を落とす。だからこの日より前は漁を行わない、という類のものだ。鮭のオオスケは、鮭の王とも、鮭の妖怪ともいわれる。 岩手県内では、大鷲にさらわれた人が鮭のオオスケに助けられ故郷に帰って来たという話(旧竹駒村/現・岩手県陸前高田市)や、遠野が湖水であった頃、気仙口から鮭に乗ってやってきた男が遠野郷に住み着いた人間の始まりであったという話がある。人の世界と鮭の世界が交わる語りは北海道や北米にもあり、環太平洋に広がっているようだ。 古くから、鮭はカナダ北西海岸の先住民の重要な食料でもあり、敬われる存在でもある。そしてやはり日本と同じように、鮭にまつわる伝承や信仰がある。 ある土地では、鮭は海の奥深くの村に住む不死身の人間であると信じられ、春になるとその人々は鮭に姿を変え、陸に住む人々に食料として自らの体を与えた。また、鮭の群れは同じ一族であり、その中の誰かが故郷の川に戻ることを許されると、一族の全員がそれに続くのだという。 先住民のサーニッチの人々は、すべての生き物はかつては人間であったと信じており、尊敬の念を持って接している。鮭もまた私たち人間の親戚なのだ。 ...その年最初の大きな紅鮭が捕まえられたとき、サーニッチの人々は鮭の王への敬意を表して歓迎の儀式を行った。時としてその儀式は10日間続くこともある。 …時間をかけて祝うことは、鮭の群が川に戻って産卵し、その子孫を残すことを願うものでもあったのだ。 [一部ニコラス・クラクストンの論文より引用] 毎年同じ川に戻ってくる鮭は、流域に留まり暮らす人々にとって、想像の彼方の遠い世界との間を行き来する不思議な存在でもあっただろう。時代は変わり、世界は小さく、遠くは近くになりつつあった。しかし2020年、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により、日本から国外へ旅することも、海外から日本を訪れることも難しくなった。 けれど鮭たちは、きっと変わらず同じ川に戻って来るだろう。北太平洋のアラスカ・カナダの海岸まで回遊する10,000キロメートルの旅を終えて、日本の私たちにとって身近な川に、鮭は戻って来る。その昔、人々がはるか彼方へ旅する鮭にさまざまな物語を託したように、想像の力を鮭の姿にのせて、いまここから旅ができるかもしれない。 今回、盛岡で発表されるDylan Thomasの作品は、太平洋のむこう側にも鮭とともにある暮らしや文化があることを教えてくれる。是恒さくらは、日本国内では忘れられつつある鮭の伝承へのリサーチから、変身譚に着目する。「鮭に姿を変える人とその衣装」を、想像の世界への案内人として創作する。 鮭に導かれたふたつの世界が出会う時、私たちはどれほど遠くまでゆけるだろう。 --- https://www.cyg-morioka.com/exhibition/20201031/index.html 是恒さくら+Dylan Thomas 「ふたつの水が出会うとき / When two waters meet」 〈盛岡市・ビクトリア市姉妹都市提携35周年記念事業〉 Cyg art gallery(岩手県盛岡市内丸16-16 大手先ビル2F) 2020.10.31(土) - 11.15(日) 11:00-19:00/火曜・水曜定休/入場無料
1 Comment
Leave a Reply. |
AuthorSakura Koretsune. Artist. Archives
July 2024
Categories |