Ordinary Whale’s Light / ありふれたくじらの灯
電気が断たれた夜、まっくろな影になった街並を前に、ふと想像した。
1851年の小説家はどんなふうに夜を過ごしていたのだろう、と。
机の上には鯨の油で火を灯すランプ
何年も何十年も大海を回遊していた巨大生物の残滓が燃えて
ゆらゆらと揺れる明かりとなった
1851年の夜はそうして、本とともに、更けていっただろうか。
2016年に訪れたアラスカ北極圏。
チュクチ海に突き出した細い半島に、ポイント・ホープという先住民の村がある。
北米大陸で人が繰り返し住み続けてきた場所として最も古いと言われる場所のひとつだ。
いまでも毎年春、凍った海が溶けて割れはじめると、村の人たちは皮舟を漕ぎ鯨猟に出る。
世界の国々が鯨の捕獲を競った時代。
この村の近くにも遠くからやって来た捕鯨船乗りたちの村があったという。
いまでは跡形もなく、背の低い木々と、カラフルな苔類と、夏の間だけ咲く小さな花々が大地を覆う。
2019年。
鯨の油のランプがありふれていた頃から、168年という時間が流れて、
鯨の油に代わり石油が、電気が、家々を暖め街々を照らすようになった。
そして燦燦と照らされる街で、夜の暗さを忘れる部屋で、みな、不思議に思う。
なぜ命を賭けて、何年も家族と離れて、果てしない海に鯨を追ったのだろう?
いくつもの種の絶滅の危機を招くほどに。
電気を消して、168年前のような灯をともしたら、その隔たりの表面に触れることができるかもしれない。
2019.10
1851年の小説家はどんなふうに夜を過ごしていたのだろう、と。
机の上には鯨の油で火を灯すランプ
何年も何十年も大海を回遊していた巨大生物の残滓が燃えて
ゆらゆらと揺れる明かりとなった
1851年の夜はそうして、本とともに、更けていっただろうか。
2016年に訪れたアラスカ北極圏。
チュクチ海に突き出した細い半島に、ポイント・ホープという先住民の村がある。
北米大陸で人が繰り返し住み続けてきた場所として最も古いと言われる場所のひとつだ。
いまでも毎年春、凍った海が溶けて割れはじめると、村の人たちは皮舟を漕ぎ鯨猟に出る。
世界の国々が鯨の捕獲を競った時代。
この村の近くにも遠くからやって来た捕鯨船乗りたちの村があったという。
いまでは跡形もなく、背の低い木々と、カラフルな苔類と、夏の間だけ咲く小さな花々が大地を覆う。
2019年。
鯨の油のランプがありふれていた頃から、168年という時間が流れて、
鯨の油に代わり石油が、電気が、家々を暖め街々を照らすようになった。
そして燦燦と照らされる街で、夜の暗さを忘れる部屋で、みな、不思議に思う。
なぜ命を賭けて、何年も家族と離れて、果てしない海に鯨を追ったのだろう?
いくつもの種の絶滅の危機を招くほどに。
電気を消して、168年前のような灯をともしたら、その隔たりの表面に触れることができるかもしれない。
2019.10
Ordinary Whale’s Light / ありふれたくじらの灯は、「山形藝術界隈展一三 盛岡会合」(2019.10.26‒11.10)に合わせてCyg art gallery(岩手県盛岡市)にて販売しています。